高市首相、「存立危機事態」発言に思う
行政書士という仕事柄、外国の方、特に中国や台湾などの方の手続きを行うことが多く、またそのお付き合いも多いです。
そこへ、今回の高市首相の台湾有事に関する「存立危機事態」になり得る旨の国会答弁。その後の日中関係の悪化や政府間の主張、反論の応酬。国民の一部には「良く言った」というような威勢のいいインターネット上の言論も渦巻き、戦前の日本が戦争に突入していったのはこのような雰囲気なのかなとも感じています。
この間のこの件に関する専門家、識者の見解で、特に私が目を引いたのは、12月4日付け朝日新聞「オピニン&フォーラム」の元内閣法制局長官・弁護士の宮崎礼壹さんの見解です。
それは、「結論を先に申し上げると、安保法制が合憲だと仮定しても、法的に見れば台湾有事に集団的自衛権すなわち存立危機事態が成立する余地はそもそもないのではないでしょうか。」という見解です。目から鱗が落ちました。
つまり、高市首相の発言は、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 」(長い名前です、略称「事態対処法」)の第2条4号の「 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。」に関する法解釈の問題。
宮崎さんは、「集団的自衛権の国際法上の根拠規定は国連憲章51条で、国連加盟国に対して武力攻撃が発生することが前提条件」で、「主要国は台湾を独立国として認めておらず、国連加盟国でもない」ので、「集団的自衛権を行使する国際法上の前提条件がない のです。」と述べられています。 また当事国である中国は、安保理常任理事国であり、「『1つの中国』を主張し、日本もこれを尊重するとしてきています。」とされます。
また、アメリカが中国に対し集団的自衛権行使としての武力攻撃を行う、対中攻撃も上記理由から正当性がなく、「中国の米国に対する武力による反撃も、正当防衛になりこそすれ、国際法上『違法=不正』と決めつけるのは困難です。」と述べておられます。
つまり、宮崎さんは、高市首相の「存立危機事態」に関する法解釈は誤っている、ということを述べているのです。
もちろん、法律の解釈は、俗に通説、多数説、少数説、判例(事例が必要)などがあり、一概にこの宮崎さんの解釈が正しいというわけではない、と思います。ただ内閣の「法の番人」「頭脳」として法令の解釈、調査を行う内閣法制局の元長官であり、法律解釈の専門家である弁護士の方の法解釈です。理路整然としています。納得します。
これだけ、難しく、しかも武力攻撃を伴い、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」(対処法第2条4号)という「存立危機事態」について、特定のケースについて、「可能性」であるとはいえ、認めてしまった高市首相の発言。
先日仕事でお会いした日本在住の中国の方も「平和が一番。」 と、この高市首相の発言を気にされていました。高市首相はこれだけ緊張した日中関係を緩和、改善、良好にする方策を持っているのでしょうか。発言の撤回も含め、今その行動を見せていただきたいと考えています。








